Oリングの耐圧性についてのまとめです。Oリングのシール機能は溝内で確保されるつぶし代だけでなく、シール対象物からの接触圧力によって発生する自封作用にも依拠していることから、Oリングを選定する上では耐圧性を考慮することが重要になります。耐圧性に係る不具合には、頻繁に発生する事象としてシール対象からの圧力でOリングが溝の隙間に噛み込んでしまう「はみ出し現象」が挙げられます。この現象が進行するとOリングがむしれて破損し、シール機能を失ってしまいます。もう一方で、発生するシーンは限定的ながら、はみ出し現象とは異なる仕組みでOリングに深刻な欠損を生じてしまう事象として、「ブリスター現象」が挙げられます。これはシール対象が高圧ガスである場合に発生し得る現象で、高圧によってOリング内部に浸透したガスが、急速減圧によって滞留したまま膨張してOリングを内部から破裂させてしまいます。ここでは、それら2つの現象に係るOリングの耐圧性を、Oリング材質の性能を基軸に解説いたします。
はみ出し現象を防止する観点からOリングの耐久性を判断するに当たっては、Oリング材質の保有する硬度と引張強さが重要な指標となります。Oリングが硬くなれば適切なつぶし代を与える為に溝部の締め付け力を強くする必要があり、結果として耐圧性も向上します。また、硬度や引張強さが高い程に圧力によって変形し難くなり、更には溝端部で引き千切られることも少なくなります。このように、これら2つの性能ははみ出し現象の抑制に対して直接的な影響を及ぼします。但し、Oリングの物性は総合的に判断するべき指標であり、耐圧性に於いても例外ではありません。伸び率も間接的に影響する為、全体的に高い物性を持つOリング材質の方が耐圧性に優れます。下表がその具体例です。ここでは硬度A70に対して伸び率が200%以下のものを挙げていますが、このような材質は柔軟性に欠けることから圧力影響を緩和させ難くなり、概算で1〜2割程度の性能低下が考えられます。尚、バックアップリングを併用することでも、耐圧性を向上させることが出来ます。
例)物性値と耐圧性の関係
Oリング材質(A) | Oリング材質(B) | |||
---|---|---|---|---|
硬度 (JIS-A) | A70 | A70 | ||
引張強さ (MPa) | 20 | 22 | ||
伸び率 (%) | 280 | 190 | ||
最高耐圧 (MPa) | バックアップリングなし | 7〜8 | 6〜7 | |
バックアップリングあり | 12.5〜16 | 11〜14 |
配合剤と耐圧性の関係
ゴムコンパウンドの製作時に添加する配合剤によって、Oリング材質の耐圧性を良化させることが出来ます。前述の通り、はみ出し現象に係る耐圧性に最も影響する指標は、硬度と引張強さです。基本的にそれらは正の相関関係にあり、補強性充填材の添加比率を上げることで両方を高くすることが出来ます。尚、非補強性充填材の添加については、硬度に対して引張強さの上昇率が低い為、特定の高圧条件下で用いるOリング材質には使われません。また、加工助剤や老化防止剤についても、添加量が少ない方が耐圧性に優れる傾向があります。
最高耐圧性能
はみ出し現象に係る各Oリング材質の最高耐圧性能は、概して以下の通りとなります。配合剤などの影響で変動はするものの材料系統ごとの物性が色濃く反映されており、その中でも特にウレタンゴム(U)は圧倒的に優れた耐圧性を保持しています。翻ってシリコンゴム(VMQ)は極端に耐圧性が劣りますが、これは材料特性に由来する低い引張強さの影響で、高硬度(A90)の材質が作られない原因のひとつでもあります。尚、硬度の高い材質の使用に当たっては、高圧に対しては良好ながら、溝設計によっては低圧に於いて漏れが発生し易くなる場合があります。
材料系統 | 硬度 (JIS-A) | 最高耐圧 (MPa) | 代表的なOリング材質 |
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ウレタンゴム | A70 | 20〜25 | U-70 |
A90 | 25〜40 | U-90 | |
水素化ニトリルゴム | A70 | 17〜23 | HNBR-70 |
A90 | 20〜30 | HNBR-90 | |
ニトリルゴム | A70 | 4〜5 | NBR-70-1 (1A), NBR-70-2 (2A) |
A90 | 8〜12 | NBR-90 (1B) | |
フッ素ゴム(3元系) | A70 | 3〜5 | フロロパワー3F |
A90 | 4〜10 | フロロパワー3F90 | |
エチレンプロピレンゴム | A70 | 3〜5 | EPDM-70 |
A90 | 4〜8 | EPDM-90 | |
クロロプレンゴム | A70 | 3〜5 | CR-70 |
A90 | 4〜8 | ― | |
パーフルオロエラストマー | A75 | 2〜5 | フロロパワーFFS |
A90 | 4〜10 | フロロパワーFFH90 | |
フッ素ゴム(2元系) | A70 | 2〜3 | FKM-70 (4D) |
A90 | 4〜8 | FKM-90 | |
シリコンゴム | A70 | 0.3〜0.7 | VMQ-70 (4C) |
A90 | ― | ― |
ブリスター現象とは、高圧によってゴム材の内部に浸透したガスが、急速減圧(Explosive Decompression/ED)の影響で内部に滞留したまま膨張してゴム材を破裂させてしまう現象で、耐ブリスター性(防爆性)の低いOリングを高圧ガスで使用した際に発生します。ブリスター現象は、膨張した滞留ガスが外へ抜け出る前にゴム材を内部破壊してしまうことが原因で発生する事象なので、Oリング材質の気体透過性が高い程に発生し難くなり、また減圧の速度を遅くすることで防止することが出来ます。しかし気体透過性が高ければ圧力低下や微少リークといった問題が発生し易くなり、また石油やガスの掘削機器などに於いては急速減圧を回避するのが難しいことから、使用条件次第では耐ブリスター性に優れるOリングの選択が不可避になります。尚、耐ブリスター性に求められる最も重要な要素は物理的な強度です。従ってOリング材質が保有する引張強さや硬度は直接的な影響を及ぼしますが、ガスの種類と材料系統によって気体透過性が大きく変動することをはじめ、性能には様々な複合要素が絡むことから具体的な数値指標にはなり得ません。通常、耐ブリスター性の判定は次項のRGDテストによって行われます。
耐ブリスター性の規格(RGDテスト)
ブリスター現象に対する耐性については、直接的に石油やガスの掘削事業に携わる土壌のある欧米各国を中心に、Oリング材質に対する規格と認証制度が制定されています。Oリングの耐ブリスター性について規定された主要なRGD(Rapid Gas Decompression)試験規格の概要は下表の通りで、それぞれ細かい条件は異なるものの、基本的な試験工程は同様です。溝に装着された状態の試験片(AS568規格の所定寸法Oリング)を規定のガスによって加圧してから、一定の時間を空けて急速減圧するという作業を複数回に亘って繰り返します。尚、試験片の評価基準はどの規格でも共通です。
耐ブリスター性の規格−RGD試験規格 | ||||
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規格名 | ISO23936-2 | NORSOK M-710 | NACE TM0297-7.4 | TOTAL GSPVV142 |
国 | イギリス | ノルウェー | アメリカ | フランス |
試験片 (Oリングサイズ) | AS568-312 | AS568-325 | AS568-325 | AS568-349 AS568-425 |
充填ガス | CH4/CO2=90:10 N2/CO2=90:10 | CH4/CO2=3:97 | CO2=100 | CH4/CO2=80:20 |
温度 (℃) | 100±2 | 100 150 200 | 100 120 150 175 230 | 75 |
圧力 (MPa) | 15±2 | 15 20 30 | 7 17 28 38 | 19 |
減圧速度 (MPa/分) | 2.0 | 2.0〜4.0 | 7.0 | 12.7 |
減圧回数 (回) | 8 | 10 | 1 | 5 |
初回圧力保持時間 (時間) | 68 | 72 | 24 | 72 |
圧力保持時間 (時間) | 6及び12の交互 | 24 | 規定なし (減圧1回) | 48 |
中間放置時間 (時間) | 1 | 1 | 規定なし (減圧1回) | 1 |
装着溝充填率 (%) | 85 | 80〜85 | 規定なし (圧力環境に放置) | 規定なし (任意) |
Oリングつぶし率 (%) | 15 | 20 | 規定なし (圧力環境に放置) | 18 |
n数 (個) | 4 | 3 | 9 | 4 |
試験工程を経た4個のOリング(試験片)毎に、4箇所を切断して下表に掲げる基準に準拠した評価を行います。それぞれの断面に対して評価に応じた点数が割り振られ、各Oリングの最大点数を取り上げて、全ての点数が3以下であれば合格となります。従って、評価点数は[1, 0, 0, 0]や[3, 2, 2, 5]といった具合に表記されますが、合格と判定される評価点数に於いて最も優秀なものは[0, 0, 0, 0]、制限一杯のものは[3, 3, 3, 3]となります。
耐ブリスター性を保有するOリング材質
以下は、上記RGDテストに合格して規格の認証を取得している主要なOリング材質です。当社のフロロパワーシリーズの一部も、中東地域や中国、ロシア、南アフリカといった産油国に於いて活躍しています。
RGDテストに合格している主なOリング材質 | ||
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認証取得規格 | 材料系統 | Oリング材質/メーカー |
ISO23936-2 | パーフルオロエラストマー(FFKM) | フロロパワー®FFH90/桜シール |
ISO23936-2 | フッ素ゴム(FKM)−3元系 | フロロパワー®3F90/桜シール |
ISO23936-2 | フッ素ゴム(FKM)−2元系 | FKM-D-90/桜シール |
ISO23936-2 | 水素化ニトリルゴム(HNBR) | HNBR-D-90/桜シール |
ISO23936-2 | フッ素ゴム(FKM) | FKM944/Greene Tweed |
ISO23936-2 | フッ素ゴム(FKM) | VG10-90/Parker |
NORSOK M-710 | パーフルオロエラストマー(FFKM) | カルレッツ®0090/Dupont |
NORSOK M-710 | フッ素ゴム(FKM) | V1238-95/Parker |
NACE TM0297-7.4 | パーフルオロエラストマー(FFKM) | ケムラッツ®526/Greene Tweed |
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