Oリングによって気体(ガス)をシールした際、Oリングのサイズと溝の設計が適合しているにも拘らず、ゴム材質(Oリング材質)そのものを通り抜けて微小なリーク(漏れ)を生じることがあります。高真空用途で多く見られるこの現象は、ゴムという物質の分子が規則正しく並んでおらず、分子鎖が絡み合った構造をしていることから、分子と分子の間に隙間が存在していることに起因します。膨らませたゴム風船が徐々に萎んでいくのと同様で、分子量の小さな気体がゴム材質の分子間隙間に入り込んで通過しているのです。このような性質をガス透過性と呼び、逆に気体がゴム材質を通過しない性質のことをガスバリア性といいます。ここでは、これらの性質に係る要因や測定データを提示いたします。技術資料として、Oリングの選定や設計の参考にして下さい。
要因
① 原料ゴム
ゴム材質(Oリング材質)の原材料である原料ゴムの分子構造は、ガス透過性とガスバリア性に大きく影響します。分子間距離が長い原料ゴムは分子間隙間が大きくなり、ガス透過性が高くなる傾向があります。従って、分子間距離が長いことから耐寒性に優れるシリコンゴム(VMQ)などによるゴム材質は、総じてガス透過性が高くなります。また、パーフルオロエラストマー(FFKM)のように基本構造を構成する分子が大きな原料ゴムも、分子間隙間が大きいことからガス透過性が高くなります。
② 配合剤
配合剤は、ガス透過性とガスバリア性に若干の影響を与えます。充填材などの添加は分子間隙間を物理的に埋めることとなる為、ガスバリア性が高くなります。尚、液状の配合物は隙間から自由に動いてしまうので、殆ど影響を及ぼしません。
③ 気体(ガス)
気体(ガス)の種類は、ガス透過性とガスバリア性に大きく影響します。一般に気体の分子量が小さいほどゴム材質の分子間隙間に入り込みやすくなる為、ガス透過性が高くなります。但し、分子量が大きくてもゴム材質との相性によってガス透過性が高くなる気体も存在し、二酸化炭素やプロパンなどが該当します。
④ 温度条件
温度条件は、ガス透過性とガスバリア性に影響します。ゴム材質は温度の上昇による熱膨張で分子間隙間が大きくなる為、Oリングの使用環境が高温であるほどガス透過性が高くなる傾向があります。逆に低温の場合では収縮して分子間隙間が小さくなる為、ゴム材質が凍結しない範囲であればガスバリア性が高くなります。
⑤ 圧力条件
圧力条件は、ガス透過性とガスバリア性に影響します。ゴム材質に対する圧力は気体(ガス)をゴム材質の分子間隙間に押し込む力として反映される為、Oリングの使用環境が高圧であるほどガス透過性は高くなります。尚、ガスバリア性の高いゴム材質に高い圧力で気体を押し込むと、圧力を開放しても気体がゴム材質の内部に滞留したままになり易いことから、圧縮されていた気体が膨張してブリスター現象が発生し易い傾向があります。
ガス透過量データ(測定値)
材料系統 | 温度 | He | H2 | O2 | N2 | CO2 | CH4 | C2H2 | C3H8 | 代表的な |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
25 | N/A | 400 | 400 | 200 | 1600 | N/A | N/A | 10000 以上 | ||
50 | 570 | 500 | 280 | 1550 | ||||||
25 | N/A | N/A | 16.5 | 5.90 | 79.2 | N/A | N/A | 91.2 | ||
50 | 46.6 | 13.7 | 183 | 246 | ||||||
25 | 10.3 | 8.25 | 2.5 | 8.1 | 28.7 | 3.3 | N/A | N/A | ||
25 | 17.5 | 30.5 | 13 | 4.8 | 94 | N/A | N/A | N/A | ||
50 | 42 | 74 | 34.5 | 14.5 | 195 | |||||
25 | 2.95 | 4.6 | 1.0 | 0.8 | 3.9 | 0.6 | N/A | N/A | ||
25 | 2.64 | 4.13 | 1.7 | 0.7 | 1.6 | 0.4 | N/A | N/A | ||
25 | N/A | 10.3 | 3.0 | 0.89 | 19.5 | 2.5 | N/A | N/A | ||
50 | 28.5 | 10.1 | 3.55 | 56.5 | 9.8 | |||||
25 | 9.32 | 12.1 | 2.94 | 0.81 | 23.5 | N/A | 18.9 | 26.9 | ||
50 | 23.4 | 33.7 | 10.5 | 3.58 | 67.9 | 68.3 | 78.3 | |||
25 | 5.2 | 5.42 | 0.73 | 0.18 | 5.67 | N/A | 8.25 | 11.2 | ||
50 | 14.2 | 17.0 | 3.5 | 1.08 | 22.4 | 19.8 | 33.1 | |||
25 | 6.4 | 5.5 | 0.99 | 0.25 | 3.94 | 0.6 | 1.28 | N/A | ||
50 | 17.3 | 17.2 | 4.03 | 1.27 | 14.3 | 3.2 | 5.82 |
(×10⁻⁸cc,cm/cm²,sec,atm)
フロロアップD及びフロロアップVは、優れたガスバリア性を有しています。
材質名称 | 透過係数 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
H2 | He | N2 | O2 | CO2 | CH4 | |
フロロアップD | 4.56 | 2.87 | 0.7 | 0.9 | 3.5 | 0.3 |
フロロアップK | 400以上 | 400以上 | 260.0 | 400以上 | 400以上 | 400以上 |
フロロアップS | 400以上 | 400以上 | 270.0 | 400以上 | 400以上 | 400以上 |
フロロアップV | 6.3 | 4.6 | 2.2 | 1.5 | ― | ― |
フロロアップFFEX | ― | ― | ― | ― | ― | ― |
FKM-70(4D) | 4.6 | 2.95 | 0.8 | 1.0 | 3.9 | 0.6 |
フロロパワーFF | 8.25 | 10.3 | 8.1 | 2.5 | 28.7 | 3.3 |
(×10⁻⁸cc,cm/cm²,sec,atm)
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