エチレンプロピレンゴム(EPDM)

原料ゴム(ポリマー)としてのエチレンプロピレンゴム(EPDM)の解説です。正式名称をエチレンプロピレンジエンゴムというこのゴム材料は、耐水性や耐薬品性耐候性耐寒性などに優れる石油系合成ゴムです。尚、極めて生産量の多い原料ゴムのひとつで水道配管部品や自動車部品などとして幅広い分野で使用されていますが、自動車の窓枠やホースほか電線の被覆などで多用されており、Oリング材質としての需要はそれほど大きくありません。

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正式名称 エチレンプロピレンジエンゴム
化学構造 エチレン、プロピレン、ジエン三元共重合体
ポリマー比重 0.86〜0.87
代表的特長 耐水性、耐薬品性、耐候性、耐寒性
主なOリング材質 EPDM-70
EPDM-90
EPDM-H-70
ほか

化学構造<エチレン、プロピレン、ジエン三元共重合体>と特徴

エチレンプロピレンゴム.png

エチレンプロピレンゴムという名称で呼ばれることが多い原料ですが、この名称の場合、エチレンとプロピレンの2元共重合体であるEPMを指すことになります。EPMも実在するゴム原料ですが、二重結合が無い飽和結合なので加工性に劣り、一般的にOリング材質で使用されることはありません。そのEPMに対して第3成分でジエン(上図のD部分)を導入し不飽和結合したものがEPDMで、加工性が飛躍的に向上します。エチレンプロピレンゴムと呼ばれて流通しているゴム材は、ほぼ全てEPDMといっても差し支え有りません。

第3成分であるジエンの主だったものには、以下の3種類が有ります。

① ENB(5−エチリデン−2−ノルボルネン)

5-エチリデン-2-ノボルネン.png

② DCP(ジシクロペンタジエン)

ジシクロペンタジエン.png

③ HD(1,4−ヘキサジエン)

1,4-ヘキサジエン.png

現在、市販されている殆どのEPDMのジエン部分はENBです。理由としては、重合工程に於いてDCPは分離しやすいことから重合条件の設定が難しく、HDは反応性が低いため生産性で劣ることが挙げられます。

EPDMは主鎖に二重結合を持たない主鎖飽和型なので、強固で安定した分子鎖であり、耐候性に優れ、石油系合成ゴムとしては耐熱性や耐薬品性でも比較的高い性能を保持しています。しかし極性基を持っていないことから耐油性が無く、グリスを使用する場合などにも種類選択で注意が必要となります。

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配合剤

エチレンプロピレンゴム(EPDM)に用いられる主な配合剤には、以下のようなものが挙げられます。

配合剤 具体例
補強性充填材 カーボンブラック、珪酸類
可塑剤 鉱物油系軟化剤、合成軟化剤
架橋剤 硫黄、有機過酸化物
加硫促進剤 チウラム系、ジチオカルバミン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系
老化防止剤 硫黄系
加硫助剤 トリアリルイソシアネート、トリメチロールプロパントリアクリレート
加硫促進助剤 酸化亜鉛
加工助剤 ステアリン酸

充填材を添加することが出来る容量が極めて大きく、また可塑剤が少ないと加工性が非常に悪くなることから、ポリマーよりも大きな比率で充填材と可塑剤を添加することが一般的です。また硫黄加硫では歪みやすい特性が強くなる為、Оリングの分野ではパーオキサイド加硫(PO加硫/有機過酸化物加硫)が多く用いられています。尚、耐候性に優れているので老化防止剤はあまり使用されませんが、側鎖のジエンを保護する目的で添加されることがあります。

加硫ゴム(Oリング材質)の一般的な特徴

エチレンプロピレンゴム(EPDM)をベースにした加硫ゴム(Oリング材質)は、以下のような性能を持ちます。但し、前述のとおり充填材と可塑剤がポリマー以上に添加されることが多いので、添加剤の影響が非常に大きくなります。よく有る例として、ポリマーが耐性を持つ薬品であっても可塑剤が耐え切れずに溶解したり(抽出現象)、ポリマーの持つ耐熱性や耐寒性が可塑剤の性能に影響されて低下したりといった現象が挙げられます。加硫ゴムの性能をポリマー由来の性能だけで判断するのが難しい為、加工メーカーによる性能差を認識する必要があります。

一般特性

硬度 (JIS-A) 30〜90
引張強さ(MPa) 5〜20
伸び率(%) 100〜800
反発弾性
引き裂き強さ
耐磨耗性
屈曲性
耐熱温度 (耐寒性耐熱性) -60〜150
耐老化性
耐オゾン性
難燃性 ×
電気絶縁性(Ω・cm) 10¹²〜10¹⁶
ガスバリア性

 

耐油性耐薬品性
燃料油(ガソリン、軽油) ×
非極性溶剤(ベンゼン、トルエン) ×
トリクレン ×
アルコール
エーテル
極性溶剤(MEK、アセトン)
酢酸エチル
有機酸類
高濃度無機酸類
低濃度無機酸類
高濃度アルカリ
低濃度アルカリ

 

原料ゴムの供給元(メーカーと商品名)

エチレンプロピレンゴム(EPDM)を製造している主要な原料ゴムメーカーは下表の通りです。尚、日本国内では住友化学社とJSR社のものが広く流通しています。

メーカー 商品名
住友化学株式会社/Sumitomo Chemical Company, Limited 日本国 エスプレン(Esprene)®
JSR株式会社/JSR Corporation 日本国 JSR EP
三井化学株式会社/Mitsui Chemicals, Incorporated 日本国 三井EPT(Mitsui EPT)™
ダウ・ケミカル社/The Dow Chemical Company アメリカ合衆国 ノーデル(NORDEL)™
ケムチュラ社/Chemtura Corporation アメリカ合衆国 ロイヤレン(Royalene)®
ライオンコポリマー社/Lion Copolymer Holdings, LLC
エクソンモービル社/Exxon Mobil Corporation アメリカ合衆国 Vistalon™
DSMコポリマー社/DSM Copolymer Inc. アメリカ合衆国 ケルタン(Keltan)®
ランクセス社/Lanxess AG ドイツ連邦共和国
ランクセス社/Lanxess AG ドイツ連邦共和国 ブナEP(Buna-EP)®
ポリメリヨーロッパ社/Polimeri Europa S.r.l. イタリア共和国 Dutral®
NKNK社/PJSC Nizhnekamskneftekhim ロシア連邦 Elastokam
Unimers India Limited インド EPDM
中国石油天然気社/PetroChina Company Limited 中華人民共和国 EP
錦湖石油化学社/Kumho Petrochemical Co., Ltd. 大韓民国 KEP