Oリングの耐油性は、Oリング材質(加硫ゴム)の主原料である原料ゴム(ポリマー)の極性や、主鎖の結合エネルギーなどによって決定します。耐油性に劣る原料ゴムは油類によって溶解しやすい性質を持っていますが、Oリングとして使用される状態、つまり架橋を経てOリング材質(加硫ゴム)となった状態では、分子鎖と架橋が形成する3次元的な網目構造によって溶解せず、油類が分子鎖構造内に吸収される膨潤と呼ばれる現象が発生します。この現象では、Оリングの体積が増加して外観上は膨れ上がり、極度の強度低下が引き起こされます。よって、溝内で圧縮して使用するОリングに於いてはシール機能が低下するだけでなく、体積増加により溝からはみ出して破損に至るケースもあります。
Oリングが油類と接触する機会はシール(密封)対象が油類である時だけに止まらず、取付時のグリス塗布といった補助的な場合に於いても発生することから、耐油性はОリングにとって最も重要な性能のひとつです。そうした背景からも他の性能に先駆けて材料開発が行われてきた経緯があり、今日では多くのOリング材質が保有する一般的な性能です。
* 油類を含む様々な流体(液体/気体)に対するOリング材質各種の耐性については、Oリングの耐薬品性(接触流体と材質の適合性)にて評価の一覧を掲載しています。
>>>耐薬品性(流体と材質)
Оリングの耐油性を決定する最大の要因は、原料ゴムの極性です。極性とは分子または化学結合に於いて電荷に偏りがあることを指し、物質と溶媒が持つ極性の差異は、溶解を考える上で重要な指標になります。物質は近い範囲でより高い極性を持つ溶媒によって溶解しやすいという性質があり、例えば油の極性が原料ゴムよりも高い場合には溶解しやすいということが出来ます。原料ゴムの極性は、石油系合成ゴムでは側鎖に付加される極性基によって、石油系以外のゴムでは主となる分子構造によって生み出され、Oリングの耐油性に大きな影響を与えます。
一般的に原料ゴムは極性が高いほど強い耐油性を持つといえますが、実際には極性以外の要素も耐油性に関係します。極性が低い原料ゴムであっても、FKMのように電子吸引性の置換基や元素があると主鎖の結合エネルギーが大きくなり、強い耐油性を示します。また、原料ゴムの分子構造が油と同じ系統(フッ素結合とフッ素油など)である場合には、互いに引き合おうとすることから極性の高低に関わらず溶解しやすくなります。このように、耐油性や相溶性の判断に極性は有用ですが、Oリング材質を選定する上ではそれ以外の要素も検証する必要があります。
原料ゴム | 原料系統 | 全般的な耐油性 | 代表的なOリング材質 |
---|---|---|---|
NBR(中高) | 石油系 | アクリロニトリルに含まれる極性基のニトリル基(−CN)により、優れている。 | NBR-70-1(1A), NBR-90(1B), ほか |
NBR(高) | 石油系 | 通常のNBRよりもアクリロニトリルの比率が高いことから、非常に優れている。 | NBR-70-2(2A), ほか |
FKM(2元系) | フッ素系 | 極性基を持っていないが、元素Fが電子吸引性であることからフッ素結合(C−F)の結合エネルギーが高く、非常に優れている。 | FKM-70(4D), FKM-90, ほか |
FKM(3元系) | フッ素系 | 通常のFKMよりもフッ素結合(C−F)の割合が高いことから、より一層優れている。 | フロロパワー3F, ほか |
FVMQ | フッ化シリコン系 | 極性基を持っていないが、元素Fが電子吸引性であることから結合エネルギーが高く、非常に優れている。 | フロロパワーFQ, ほか |
HNBR | 石油系 | 極性基であるニトリル基(−CN)により、優れている。 | HNBR-70, ほか |
CR | 石油系 | 極性基である塩素基(−Cl)により、優れている。 | CR-70, ほか |
ACM | 石油系 | 側鎖に極性基であるエーテル基とエステル基があることから、優れている。 | ACM-70, ほか |
U | 石油系 | ウレタン構造(−NHCOO−)にエーテル基やエステル基、水酸基などの極性基を持つ分子が付加されることから、優れている。 | U-70(ウレタン70), ほか |
EPDM | 石油系 | 炭化水素結合(C−H)のみで構成され、極性基を持たないことから劣っている。 | EPDM-70, ほか |
VMQ | シリコン系 | 基本的に(Si−O)で構成されており、極性基を持たないことから劣っている。 | VMQ-70(4C), VMQ-50(半透明SI), ほか |
IIR | 石油系 | 炭化水素結合(C−H)のみで構成され、極性基を持たないことから劣っている。 | IIR-70, ほか |
SBR | 石油系 | 炭化水素結合(C−H)のみで構成され、極性基を持たないことから劣っている。 | SBR-70, ほか |
FFKM | フッ素系 | 分子鎖の全てがフッ素結合(C−F)で構成されていることから、極めて優れている。 | フロロパワーFF, ほか |
油の種類
Oリングと接触することの多い代表的な油類には、以下のような種類があります。
油の種類 | 極性 | 代表例 |
---|---|---|
鉱物油 | 非極性 | エンジン油、ギヤ油、タービン油、リチウムグリス |
燃料油 | 低極性 | ガソリン、軽油、重油、灯油 |
リン酸エステル油 | 極性 | 難燃性作動油、ブレーキ油 |
グリコール油 | 低極性 | 難燃性水系作動油、水系切削油 |
シリコン油 | 非極性 | シリコングリス、シリコン研磨油 |
フッ素油 | 非極性 | フッ素グリス、活性フッ素オイル |
種類別の耐油性
原料ゴムの耐油性を油の種類別に捉えると、以下のようになります。
昨今、油類には用途に応じた様々な開発がなされており、特殊なものには油類とは異なる薬品類が添加されています。合成油に添加されるエステル系溶剤や、バイオ燃料に添加されるエタノールやメタノールといったアルコール類がその代表例で、それらの影響でOリングが膨潤したり分解したりしてしまうことがあります。Oリングの選定時には油類に含まれる他の成分もよく確認し、必要に応じては使用前に浸漬試験などを行うことを推奨いたします。
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