HNBR-70は、水素化ニトリルゴム(HNBR/水添NBR)と呼ばれるニトリル(NBR)を変性した原材料によるOリング用のゴム材質です。一般的なNBR材質と比較して耐熱性や耐油性、耐候性などに優れており、更には高圧部や磨耗し易い摺動部でも優秀な性能を発揮する耐圧性や機械的強度も兼ね備えています。また、HFCをはじめとする代替フロン類への耐性がゴムの中で最も高く、冷媒用のシール材としても多く活用されています。尚、新たな規格(JIS B 2401)材質として規格値と正式名称が与えられたHNBR-70ですが、以前からHNBRの名称で広く流通している汎用材質のひとつです。また、通称として定着しているゼットポールについては、日本ゼオン社の原料ゴムに係る商品名であるゼットポール(Zetpol)®が語源となります。世界的に見てもHNBRの原料ゴムを量産しているのは同社のみであることから、ゼットポールがHNBR-70の代名詞のように常用されています。
* Oリング以外でも様々な形状の製作が可能ですので、お気軽にお問い合わせ下さい。
化学構造
アクリロニトリル・水素化ブタジエン・ブタジエン共重合物といい
ますが、水素化ブタジエンの構造はエチレンに変成しているので、正確には適切な表現ではありません。NBR中のブタジエンを一部水素化していることを指して水素化ブタジエンという表現がなされ、その理由から水素化NBRや水添加NBRなどとも呼ばれています。水素化ブタジエンの影響によって機械的特性が飛躍的に向上しており、また通常のNBRと比較してブタジエン成分が減少していることから、ブタジエンに含まれる2重結合に起因することが多いNBRの短所(オゾンクラックの発生など)が改善されています。
関連する法規制等
HNBR-70の物性値
規格(JIS B 2401)材質のひとつとなる以前から広く流通していたHNBR-70ですが、現JIS規格(JIS B 2401:2012)より公的な規格値が定められました。
試験種類 | 項目 | 現JIS |
---|---|---|
常態物性試験 | 硬度 (JIS-A) | 70±5 |
引張強さ (MPa) | > 16.0 | |
伸び率 (%) | > 180 | |
100%引張応力 (MPa) | > 2.5 | |
耐熱老化試験 | 試験条件 | 150℃×72時間 |
硬さ変化 | < +15 | |
引張強さ変化率 (%) | > -30 | |
伸び変化率 (%) | > -40 | |
圧縮永久歪み試験 | 試験条件 | 150℃×72時間 |
圧縮永久歪み率 (%) | < 40 |
使用温度範囲
推奨値は−30〜150℃です。但し、最高温度域での継続使用は熱硬化による破損が生じやすく、寿命が短くなります。また最低温度域ではゴム弾性が悪くなる為、シール性が下がってしまいます。ご注意下さい。
圧力特性
最高圧力の推奨値は20MPaで、大変優れています。但し、諸条件によって数値は異なります。尚、耐圧性はバックアップリングの併用で向上させることが出来ます。
耐薬品性
耐油性や耐冷媒性に非常に優れ、活性の低い薬品にも概ね使用可能です。Oリングの耐薬品性 (接触流体と材質の適合性)にてより多くの液体や気体に対する耐性の一覧を掲載しておりますので、下表と併せて参考にして下さい。
薬品名 | 耐性 | 薬品名 | 耐性 |
---|---|---|---|
アセトン | × | 硝酸 | × |
アンモニア水 | △ | 水素ガス | ◎ |
IPA | △ | 水道水 | ◎ |
エタノール | 〇 | スピンドル油 | ◎ |
エチレングリコール | 〇 | 100℃水蒸気 | ◎ |
エチレンジアミン | △ | 石鹸水 | ◎ |
エマルジョン系作動油 | ◎ | 炭酸水 | ◎ |
塩酸 | × | 炭酸ガス | 〇 |
エンジン油 | ◎ | 灯油 | ◎ |
海水 | ◎ | トルエン | × |
過酸化水素水 | 〇 | 動物油 | △ |
苛性ソーダ | △ | フッ酸 | × |
ガソリン | ◎ | フレオンR134a | ◎ |
カップグリス | ◎ | フレオンR410a | ◎ |
ギア油 | ◎ | ベンゼン | × |
空気 | ◎ | マシン油 | ◎ |
軽油 | ◎ | 水系切削油 | △ |
ケロシン | ◎ | メタノール | × |
食酢 | 〇 | MEK | × |
酢酸エチル | × | ラッカー | × |
酸素 | 〇 | りん酸エステル系作動油 | × |
植物油 | △ | 希硫酸 | 〇 |
次亜塩素酸ソーダ | △ | リチウムグリス | ◎ |
シリコングリス | ◎ | 鉱油系冷凍機油 | 〇 |
重油 | ◎ | 硫化水素 | △ |
◎:使用可 〇:多少の影響有り △:あまり推奨しない ×:使用不可
注)上記は参考データです。温度や圧力、その他の条件によって使用可否は変化します。
主な使用箇所
取扱注意点
〒130-0021
東京都墨田区緑3丁目4番10号
桜シール本社ビル