FKM-70(4種D/4D/フッ素ゴム/バイトン/FPM-70)は、耐熱性や耐薬品性、耐油性、耐候性といった性能の他、ガスバリア性などにも優れるOリング用のゴム材質です。かつては高機能材の定番ともいえる存在でしたが、現在では汎用材として幅広い分野で使用されています。尚、原材料のフッ素ゴム(FKM)の構造にはいくつかの種類がありますが、FKM-70などを含む2元系フッ素ゴムと呼ばれるものが一般的です。
規格(JIS B 2401)材質としては、規格値と共に正式名称が4種D(4D)からFKM-70に更新されて久しいですが、未だに旧規格の名称も常用されています。また、通称として定着しているバイトンについては、アメリカ合衆国のデュポン(ケマーズ)社による多岐に亘るフッ素ゴム原材料(原料ゴム)に係る商品名バイトン(Viton)®がルーツとなります。従って、本来であればバイトンという名称単体ではOリング材質(加硫ゴム)の特定が出来ないのは勿論のこと、フッ素ゴム原材料の種類すらも特定することが出来ません。昨今では汎用的に扱われている2元系フッ素ゴム材質ですが、アメリカ合衆国から先発品が投入された当時には、唯一無二の高機能材質として日本市場に多大な影響を与えていました。今日でもバイトンがFKM-70(4種D/4D)の代名詞のように常用されているのには、フッ素ゴムそのものが極端な寡占状態であった時代の名残が背景にあります。
尚、FKMとFPMは同義ですが、FKMがASTM(American Society for Testing and Materials/アメリカ合衆国の材料試験協会)に則った略称であるのに対し、FPMはISO(International Organization for Standardization/国際標準化機構)、若しくはDIN(Deutsche Industrie Normen/ドイツ工業規格)に拠ったものとなります。
* Oリング以外でも様々な形状の製作が可能ですので、お気軽にお問い合わせ下さい。
化学構造
2フッ化ビニリデン・6フッ化プロピレン共重合物です。主鎖のほぼ全てに含まれるフッ
素化合物が、優れた耐熱性や耐薬品性に寄与しています。2元系フッ素ゴム(2元系FKM)と呼ばれ、一般的にFKMとして流通しているOリング材質の大半はこれに属します。尚、2元系の化学構造に-(CF2-CF2)-が付いたものを3元系フッ素ゴム(3元系FKM)と呼びます。
関連する法規制等
JISB2401で規定される規格値
規格(JIS B 2401)材質に於いて相対的な性能が最も高いこの材質は、名称が4種D(4D)からFKM-70に更新されて久しいですが、未だに旧規格の名称も常用されています。尚、現JIS規格(JISB2401:2012)で規定される「FKM-70」と旧JIS規格(JISB2401:2005)で規定される「4種D」では規格値が異なりますが、桜シールOリングはどちらの規格値もクリアしています。
試験種類 | 項目 | 現JIS JIS B2401:2012 FKM-70 | 旧JIS JIS B2401:2005 4種D |
---|---|---|---|
常態物性試験 | 硬度 (JIS-A) | 70±5 | 70±5 |
引張強さ (MPa) | > 10.0 | > 9.8 | |
伸び率 (%) | > 170 | > 200 | |
100%引張応力 (MPa) | > 2.0 | > 1.9 | |
耐熱老化試験 | 試験条件 | 230℃×72時間 | 230℃×24時間 |
硬さ変化 | < +5 | < +5 | |
引張強さ変化率 (%) | > -10 | > -10 | |
伸び変化率 (%) | > -25 | > -25 | |
圧縮永久歪み試験 | 試験条件 | 200℃×72時間 | 175℃×22時間 |
圧縮永久歪み率 (%) | < 40 | < 40 |
使用温度範囲
推奨値は−20〜230℃です。但し、最高温度域での継続使用は熱硬化による破損が生じやすく、寿命が短くなります。また最低温度域ではゴム弾性が悪くなる為、シール性が下がってしまいます。ご注意下さい。
圧力特性
最高圧力の推奨値は3MPaです。但し、諸条件によって数値は異なります。尚、耐圧性はバックアップリングの併用で向上させることが出来ます。
耐薬品性
耐油性をはじめとして非常に優れていますが、極性溶剤には耐性がありません。Oリングの耐薬品性 (接触流体と材質の適合性)にてより多くの液体や気体に対する耐性の一覧を掲載しておりますので、下表と併せて参考にして下さい。
薬品名 | 耐性 | 薬品名 | 耐性 |
---|---|---|---|
アセトン | × | シンナー | × |
アニリン | ◎ | ジェット燃料 | ◎ |
亜硫酸ガス | ◎ | スピンドル油 | ◎ |
アンモニア水 | △ | 100℃水蒸気 | × |
IPA | ◎ | テトラヒドロフラン | × |
エタノール | 〇 | 灯油 | ◎ |
エチレングリコール | ◎ | トリクロロエチレン | × |
エチレンジアミン | × | トルエン | △ |
エマルジョン系作動油 | △ | 動物油 | ◎ |
塩酸 | △ | ナフサ | ◎ |
エンジン油 | ◎ | 二酸化炭素 | 〇 |
王水 | × | フッ酸 | ◎ |
過酸化水素水 | ◎ | フレオンR134a | × |
苛性ソーダ | × | ブレーキフルード(エーテル系) | × |
苛性カリ | × | プロパンガス | ◎ |
ガソリン | ◎ | ヘキサン | 〇 |
カップグリス | ◎ | ベンゼン | × |
ギア油 | ◎ | マシン油 | ◎ |
キシレン | △ | 水 | 〇 |
軽油 | ◎ | 水系切削油 | 〇 |
ケロシン | ◎ | メタノール | × |
酢酸 | × | MEK | × |
酢酸エチル | × | ラッカー | × |
硝酸 | × | りん酸エステル系作動油 | 〇 |
植物油 | ◎ | 硫化水素 | ◎ |
次亜塩素酸ソーダ | 〇 | 希硫酸 | ◎ |
シリコングリス | ◎ | リチウムグリス | ◎ |
石灰水 | 〇 | 鉱油系冷凍機油 | ◎ |
◎:使用可 〇:多少の影響有り △:あまり推奨しない ×:使用不可
注)上記は参考データです。温度や圧力、その他の条件によって使用可否は変化します。
主な使用箇所
取扱注意点
〒130-0021
東京都墨田区緑3丁目4番10号
桜シール本社ビル