フロロパワー(Fluoro-Power)®シリーズに属するFFKO(サイフェル)材質の標準タイプであるフロロパワーFO(Fluoro-Power FO/FP-FO)は、原材料にFFKO(パーフルオロポリエーテルゴム)が用いられているOリング用ゴム材質です。フロロパワーFFなどのFFKM(パーフロ)材質に迫る優れた耐薬品性に加え、殆どのゴム材質が機能できない-55℃クラスの耐寒性を併せ持っています。
フロロパワーFOは、物性や加工性の観点から従来はOリングに不向きであったFFKO(サイフェル/パーフルオロポリエーテルゴム)の弱点を補い、高次のシール性能に耐寒性と耐薬品性とを内包させることに成功したゴム材質です。極性溶剤やエーテル系の溶剤にも強い耐性を示す高位のフッ素ゴム(FFKMなど)材質は、総じて耐熱性に優れるものの耐寒性には劣っており、氷点下でその耐薬品性を担うことの出来るゴム材質が存在しませんでした。斯様な状況を打破するべく、FFKO(サイフェル/パーフルオロポリエーテルゴム)に着目して信越化学工業社との協同研究を重ね、Oリングをはじめとするシール部材に最適な性能を有す材質として専用配合で開発されたものが、フロロパワーFOです。フロロパワーFOは、硬度の異なる同系統のフロロパワーFOGやフロロパワーFOBと併せ、極低溶出性のフロロパワーFOPなどと共に、低温領域でのシーリングに新たな可能性を提示いたします。
尚、フロロパワーFOは、一般的な工業用途は勿論のこと、半導体製造などの電子産業に於いて耐プラズマ用途でも耳目を集めているゴム材質です。これまでは、エッチングプロセスやCVDプロセスで用いられるラジカル化した反応性ガス(CF4、NF3、HBr、CL2、NH3、SiH4など)に対する耐性を、耐低温性と併せて高い水準で保有するゴム材質が存在しなかったからです。代替不能な性能を持つゴム材質として、今後も幅広い産業での活躍が期待されています。但し、機械的性質や耐圧性、ガスバリア性といった側面は芳しいものではなく、また一部の耐薬品性はFFKM材質よりも劣ります。使用環境や目的を考慮して、適宜ご検討ください。
* Oリング以外でも様々な形状の製作が可能ですので、お気軽にお問い合わせ下さい。
* フロロパワー(Fluoro-Power)®は、桜シール株式会社の登録商標です。
化学構造
フッ素化ポリエーテル骨格のシリコーン架橋反応による重合体です。この材料は主鎖に炭素と酸素を持つことから、ISO1629とASTM D 1418の分類ではOグループに属し、FFKOと称されます。ポリエーテルの水素原子が全てフッ素化されている主鎖骨格がSiを介して架橋している為、非常に優れた耐薬品性を有し、且つ並外れた低温性を兼ね備えています。
関連する法規制等
フロロパワー(Fluoro-Power)®ほか、カルレッツ(Kalrez)®などの各メーカーが掲げる高機能ゴム材質には、互換的に使用できるものが多い反面、特定の用途を目的に特別な性能が付与されているものも含まれています。相当品として取り扱う場合は、使用条件に細心の注意を払って下さい。
フロロパワーFOと低温弾性回復試験(TR試験/T-R試験)
耐低温性に優れる代表的な高機能材(フロロパワーFOやフロロパワーFOG、フロロパワーFOB、フロロパワーFOP、フロロパワーDL、フロロパワーFQ)に対して行った低温弾性回復試験(TR試験/T-R試験)のデータは、以下の通りです。
フロロパワーFO
フロロパワーFOの測定値
試験種類 | 項目 | フロロパワーFO |
---|---|---|
70 | ||
8.4 | ||
237 | ||
3.4 | ||
試験条件 | 175℃×70時間 | |
硬さ変化 | +1 | |
引張強さ変化率(%) | -11 | |
伸び変化率(%) | -22 | |
試験条件 | 175℃×22時間 | |
38 |
使用温度範囲
推奨値は-55〜200℃です。但し、最高温度域での継続使用は熱硬化による破損が生じやすく、寿命が短くなります。また最低温度域ではゴム弾性が悪化する為、シール性が下がってしまいます。ご注意下さい。
圧力特性
最高圧力の推奨値は0.5MPaです。但し、諸条件によって数値は異なります。尚、耐圧性はバックアップリングの併用で向上させることが出来ます。
耐薬品性
極めて優秀です。あらゆる薬品に耐性を有し、様々なゴム材質の中でも秀でています。Oリングの耐薬品性(接触流体と材質の適合性)に於いてより多くの液体や気体に対する耐久性の一覧を掲載しておりますので、下表と併せて参考にして下さい。
薬品名 | 耐性 | 薬品名 | 耐性 |
---|---|---|---|
アセトアルデヒド | ◎ | ジメチルアセトアミド | ◎ |
アセトン | ◎ | ジエチルエーテル | ◎ |
アニリン | ◎ | 重油 | ◎ |
アンモニア水 | ◎ | シンナー | ◎ |
IPA | ◎ | スピンドル油 | ◎ |
エタノール | ◎ | 100℃水蒸気 | ◎ |
エチレングリコール | ◎ | テトラクロロエチレン | 〇 |
エチレンジアミン | 〇 | テトラヒドロフラン | ◎ |
N-メチル-2-ピロリドン | ◎ | 灯油 | ◎ |
エマルジョン系作動油 | ◎ | トリクロロエチレン | 〇 |
塩酸 | ◎ | トルエン | ◎ |
エンジン油 | ◎ | 動物油 | ◎ |
王水 | ◎ | ブチルアセテート | ◎ |
過酸化水素水 | ◎ | フッ酸 | × |
苛性カリ | ◎ | フレオンR134a | × |
苛性ソーダ | ◎ | 不活性フッ素オイル | × |
ガソリン | ◎ | ブレーキフルード(エーテル系) | 〇 |
カップグリス | ◎ | ヘキサン | ◎ |
ギア油 | ◎ | ベンゼン | ◎ |
キシレン | ◎ | ホルマリン | ◎ |
軽油 | ◎ | マシン油 | ◎ |
クロロホルム | 〇 | 水 | ◎ |
ケロシン | ◎ | 水系切削油 | ◎ |
酢酸 | ◎ | メタノール | ◎ |
酢酸エチル | ◎ | MEK | ◎ |
硝酸 | ◎ | メチルイソブチルケトン | ◎ |
植物油 | ◎ | モノエタノールアミン | ◎ |
次亜塩素酸ソーダ | ◎ | ラッカー | ◎ |
ジオキサン | ◎ | リン酸エステル系作動油 | ◎ |
四塩化炭素 | 〇 | 硫酸 | ◎ |
ジクロロメタン | ◎ | リチウムグリス | ◎ |
シリコングリス | ◎ | 鉱油系冷凍機油 | ◎ |
BCl3 | ◎ | NF3 | ◎ |
CF4 | ◎ | SF6 | ◎ |
CHF3 | ◎ | SiF4 | ◎ |
ClF3 | ◎ | SiH4 | ◎ |
HBr | ◎ | TEOS | ◎ |
NH4F | ◎ | Ti2Cl4 | ◎ |
◎:使用可 〇:多少の影響有り △:あまり推奨しない ×:使用不可
注)上記は参考データです。温度や圧力、その他の条件によって使用可否は変化します。
主な使用箇所
~~ウェットプロセスに於けるシール材
取扱注意点
〒130-0021
東京都墨田区緑3丁目4番10号
桜シール本社ビル