Oリングの耐プラズマ性(耐ラジカル性)

Oリングに於いて耐プラズマ性(耐ラジカル性)とは、半導体製造をはじめとする電子産業で広く用いられているプラズマで発生するラジカルへの耐性を指していることが大半です。物質には、個体・液体・気体のいずれとも異なる性質を持つ、プラズマという第4の状態があります。気体に電磁波などでエネルギーを加えると原子が電子と正イオンに分かれる電離という反応を生じ、それに伴って荷電粒子が自由に運動するようになった状態がプラズマです。プラズマには不対電子を持つラジカルが含まれ、その活性に因る分解や吸着、発光、成膜、発熱といった作用は、様々な工業用途で利用されています。その中でも電子産業では成膜やクリーニング、エッチングなどでの活用が進んでおり、応じてその環境下で使用するOリングの性能向上が、耐プラズマ性Oリングいう括りで求められ続けています。

 

プラズマ(ラジカル)は金属や樹脂の表面処理や有機物の洗浄などで重要な役割を担っていますが、その化学的な吸着・分解の性質はあらゆる材料に影響を及ぼし、Oリング用のゴム材質も例外ではありません。ラジカル化したプロセスガスが照射されたOリングは、削られてクラックや充填剤の噴出といった特有の反応を示します。これはラジカル、及びプラズマ電位で加速して高い運動エネルギーを持つイオンが、Oリング表面にアタックすることで引き起こされる現象で、パーティクル汚染を嫌う半導体の製造工程では致命的な欠陥になることがあります。条件に即した適切なゴム材質の採用で消耗や劣化、或いはそれらに端を発するコンタミネーションが飛躍的に改善されるケースも多いので、慎重な検討を推奨いたします。

参考:プラズマで劣化したOリング

プラズマで劣化したOリング

材質:FFKM白色(他社品)

プラズマで劣化したOリング(拡大①)

拡大写真 えぐられている

プラズマで劣化したOリング(拡大②)

拡大写真 クラックが発生している

使用条件

使用箇所 半導体製造プラズマ・エッチング装置のチャンバーリッド部
プロセスガス O2、N2
使用温度 Max300℃

 

装置から取り出した他社品(写真)についての所見

O2ラジカルに起因する典型的な消耗・劣化(接触した部分のみがえぐられ、表面にはクラックが発生)が確認された。但し、300℃の熱が直射し続ける環境ではなかった模様で、高温の影響(熱老化)は殆ど見受けられなかった。

 

置き換え実績

フロロパワーFFRに置き換え、パーティクル問題と寿命の両方が改善した。

耐プラズマ性の種類

Oリングを基軸に耐プラズマ性の種類を考えた場合、ラジカル化される前の腐食性ガスへの耐性とラジカルへの耐性という2つに大別することが可能で、更に耐ラジカル性は以下の3つへの耐性に分けて検討することが出来ます。

1)酸素ラジカル(O2ラジカル)

酸素をプラズマ化させると酸素ラジカル(スーパーオキシドやヒドロキシラジカルなど)を含む活性酸素種に変化し、有機物と反応するようになってゴム材質に含まれる原料ゴムや充填剤などに影響を及ぼします。

2)反応性ガスラジカル(CF4, NF3, HBr, CL2, NH3, SiH4など)

ハロゲン元素で構成されているものが多く、ラジカル化する前でも腐食性の高いものが多いです。ラジカル化するとアルカリやアルカリ土類金属、金属元素類と反応する為、ゴム材質に含まれる充填剤や添加剤などが影響を受けます。

3)不活性ガスラジカル(N2, Arなど)

ラジカル化しても他の物質と反応することは少なく、ゴム材質への影響も殆どありません。

耐プラズマ性とOリングの選定

プラズマの特性を活かした技術は多用されており、Oリングに耐プラズマ性が求められることは珍しくありません。しかし実際の選定では、Oリングに於ける耐プラズマ性の定義をきちんと把握することは言うに及ばず、その他の条件も考慮する必要があります。特に冒頭でも触れた半導体製造などの電子産業では、Oリングそのものが汚染源になることを避けなければならない上に、高真空であったり高温であったりという環境も重なります。その為、基本的に石油原料に由来するNBREPDMといった添加物が多くクリーン性に劣る材料系統のゴム材質は選択肢から外され、低アウトガス性や耐熱性の観点からも、FKMFFKMといったフッ素ゴム系統の材質が選ばれるのが一般的です。更に腐食ガスやラジカルへの耐性を加味して、汎用的なFKM系統の材質では心許ないケースではFFKM系統の材質を中心とした高機能フッ素ゴム材質が、特に酸素プラズマに対してはO2ラジカル耐性に焦点を当てた特殊グレードが選択されています。

 

下表は、耐プラズマ性の主要なゴム材質について、ラジカルの種類別に耐性の目安を纏めたものです。但し、ガスの種類や濃度、RFパワー、温度、時間などを勘案することが望まれますので、参考としてご活用ください。

材料系統 材質 特徴 プラズマの種類 動的使用 使用箇所の例



O2

反応性ガスラジカル 不活性ガスラジカル
FFKM フロロパワーFFT Oリングに最も大きな影響を与えるO2ラジカルを含むプラズマ全般に優れた耐性を持ち、重量減少も極めて少ない。また、耐熱性にも優れる。 O2ドライエッチングに於ける静電チャック、チャンバーリッド
フロロパワーFFR O2ラジカルに対して優れた耐性を持ち、重量が減少してもパーティクルの発生が極めて少ない。また、FFKMとしては帯電性が低いことから吸着し難い。 O2ドライエッチングに於けるゲートバルブ、振り子バルブ(ISOバルブ/アイソレーションバルブ)
フロロパワーFFDR フロロパワーFFRの廉価版で、ラジカルが弱いプロセスなどでコストメリットを期待できる。 O2ドライエッチングに於けるゲートバルブ、配管継手
フロロパワーFFSW O2ラジカルには不向きだが、反応性ガスや高温への耐性などが秀でている。 × 反応ガスCVDに於けるゲートバルブ、チャンバーリッド、真空ポンプ周辺
フロロパワーFFW O2ラジカルには不向きだが、反応性ガスへの耐性は非常に優れる。 × 反応性ガスCVDに於けるゲートバルブ、チャンバーリッド、配管継手
フロロパワーFFN O2ラジカルに若干の耐性があり、反応性ガスや高温への耐性にも優れる。
【旧型>見直し推奨】
O2混合反応性ガスプロセスに於けるチャンバーリッド、真空ポンプ周辺
FFKO フロロパワーFO O2ラジカルに多少の耐性があり、反応性ガスや低温への耐性などが秀でている。 × O2混合反応性ガス、反応性ガスプロセスに於けるチャンバーリッド、チャンバー内冷却機能部
FEPM フロロパワーAPHW O2ラジカルには不向きだが、反応性ガスや高温などへの耐性と価格優位性とのバランスが際立って優れている。 × 反応ガスCVDに於けるゲートバルブ、チャンバーリッド、真空ポンプ周辺
FFKM❘
E
フロロパワーDEW 反応性ガスに耐性を有す。 × × 反応ガスCVDに於ける配管継手
FKM フロロパワー3FW 反応性ガスに多少の耐性を有す。 × 反応ガスCVDに於けるゲートバルブ、チャンバーリッド、真空ポンプ周辺
FKM-70(4D) 汎用材でありながら、いくつかの反応性ガスに耐性を有す。 × 反応ガスCVDに於ける装置外周

◎:影響少ない 〇:多少影響あり △:影響あり ×:影響大