フロロパワーFFSG(Fluoro-Power FFSG/FP-FFSG)は、370℃クラスという全世界で正しく最高峰となる耐熱性を備えたOリング用のゴム材質です。高機能フッ素ゴムの代名詞とも目される各種FFKM(パーフロ)材質は、耐熱性の他にも極めて優秀な耐薬品性などの諸性能により、フロロパワー(Fluoro-Power)®シリーズに於いても旗艦を担う先端的な高分子化合物です。それらの原材料である「パーフルオロエラストマー(FFKM)」に対し、日本ゼオン社との協力で先端素材の「SGCNT(Super Growth single-walled Carbon Nanotube = スーパーグロース法による単層カーボンナノチューブ/以下参照)」を配合することに成功したのが、このフロロパワーFFSGです。先端技術の邂逅により、高温域での選択肢としてこれまで頂点を担ってきたフロロパワーFFS並びにフロロパワーFFSWを凌ぐ特級の耐熱グレードが誕生し、ゴム材質の限界値が大きく更新されることと相成りました。
日本発「SGCNT」について |
CNTとは、炭素によって作られる同素体の一種「カーボンナノチューブ = Carbon Nanotube」のことです。次世代の炭素素材と目されるナノマテリアル(粒径が100nm以下の素材。1nm = 1ナノメートルは10-9メートル、つまり10億分の1メートル。)で、一般にその構造からSWCNT(単層カーボンナノチューブ = Single-Walled Carbon Nanotube)とMWCNT(多層カーボンナノチューブ = Multi-Walled Carbon Nanotube)に分類されます。尚、フロロパワーFFSGに用いられている「SGCNT」の「CNT」は、SWCNTとなります。SWCNTは熱や電気の伝導性が高かったり高強度であったりという特性を有しており、それらはフロロパワーFFSGの突出した耐熱性を支える上で重要な役割を担っています。また「SGCNT」の「SG」とは、NEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)プロジェクトの成果を基に産総研(国立研究開発法人 産業技術総合研究所)が開発したCVD法(触媒金属のナノ粒子と炭化水素を熱分解してCNTを得る手法)のひとつ「スーパーグロース法 = a Super Growth method」を表しています。稀有な性質を宿すCNT(SWCNT)ですが、合成に多大な費用を要することから、学術研究に向けた用途の域を超える事が難しい素材でもありました。そのコストを実用的なレベルまで近づけたのが、当該のスーパーグロース法です。この画期的な合成技術では、極微量の水分添加によって合成雰囲気にある触媒の寿命を飛躍的に延ばすことで、従来の3,000倍もの時間効率で大量のCNT(SWCNT)が生産できるようになりました。とは言えSGCNTは、ゴム製品の配合材に用いるには依然として高価である上、ゴムコンパウンドの製作工程ではパーフルオロエラストマー(FFKM)などのポリマー内に均一分散させる特別な技術を要する等々、まだまだ課題の多い素材です。しかしながら、我が国の科学技術が紡ぎ出したSGCNTとフロロパワーFFSGが、日本を越えて世界中の幅広い産業や研究分野に新たな光明を照らす存在となって、広く貢献してゆけることを強く期待しております。 |
* Oリング以外でも様々な形状の製作が可能ですので、お気軽にお問い合わせ下さい。
* フロロパワー(Fluoro-Power)®は、桜シール株式会社の登録商標です。
化学構造
4フッ化エチレン・パーフルオロアルキルエーテル共重合物です。主鎖の全てが弗素結合(C-F)であり、炭化水素結合(C-H)が無い為、非常に優れた耐薬品性や耐熱性を有しています。尚、全体的に殆ど弗素化されている構造であることから架橋が難しい為、補助脚としてCSMが付加されています。
関連する法規制等
フロロパワー(Fluoro-Power)®ほか、カルレッツ(Kalrez)®などの各メーカーが掲げる高機能ゴム材質には、互換的に使用できるものが多い反面、特定の用途を目的に特別な性能が付与されているものも含まれています。相当品として取り扱う場合は、使用条件などを注意深く確認して下さい。
フロロパワーFFSGと高温×長時間(300℃×670時間)耐熱老化試験
耐熱FFKMの上位2グレード(フロロパワーFFSG、及びフロロパワーFFSW)に対し、特殊条件(300℃×最長670時間)による耐熱老化試験を実施いたしました。データは以下の通りとなります。
硬度変化の推移
引張強さ変化の推移
伸び変化の推移
フロロパワーFFSGと温度別(25〜380℃)耐熱老化試験
耐熱FFKMの上位2グレード(フロロパワーFFSG、及びフロロパワーFFSW)に対して行った耐熱老化試験(温度別×2時間)のデータは以下のとおりです。
硬度変化の推移
引張強さ変化の推移
伸び変化の推移
フロロパワーFFSGの測定値
試験種類 | 項目 | フロロパワーFFSG |
---|---|---|
85 | ||
22.7 | ||
119 | ||
19.7 | ||
試験条件 | 300℃×70時間 | |
硬さ変化 | +4 | |
引張強さ変化率(%) | -16 | |
伸び変化率(%) | +52 | |
試験条件 | 200℃×70時間 | |
34 |
使用温度範囲
推奨値は0〜370℃です。但し、最高温度域での継続使用は熱硬化による破損が生じやすく、寿命が短くなります。また最低温度域ではゴム弾性が悪化する為、シール性が下がってしまいます。ご注意下さい。尚、250℃以上の環境では熱膨張が大きくなりますので、通常の溝設計よりもつぶし代を小さめに、溝を大きめに設定することを推奨します。
圧力特性
最高圧力の推奨値は10MPaです。但し、諸条件によって数値は異なります。尚、耐圧性はバックアップリングの併用で向上させることが出来ます。
耐薬品性
極めて優秀です。あらゆる薬品に耐性を有し、様々なゴム材質の中でも突出した性能を有しています。Oリングの耐薬品性(接触流体と材質の適合性)に於いてより多くの液体や気体に対する耐久性の一覧を掲載しておりますので、下表と併せて参考にして下さい。
薬品名 | 耐性 | 薬品名 | 耐性 |
---|---|---|---|
アセトアルデヒド | ◎ | ジメチルアセトアミド | ◎ |
アセトン | ◎ | ジエチルエーテル | ◎ |
アニリン | ◎ | 重油 | ◎ |
アンモニア水 | ◎ | シンナー | ◎ |
IPA | ◎ | スピンドル油 | ◎ |
エタノール | ◎ | 100℃水蒸気 | ◎ |
エチレングリコール | ◎ | テトラクロロエチレン | 〇 |
エチレンジアミン | ◎ | テトラヒドロフラン | ◎ |
N-メチル-2-ピロリドン | ◎ | 灯油 | ◎ |
エマルジョン系作動油 | ◎ | トリクロロエチレン | 〇 |
塩酸 | ◎ | トルエン | ◎ |
エンジン油 | ◎ | 動物油 | ◎ |
王水 | ◎ | ブチルアセテート | ◎ |
過酸化水素水 | ◎ | フッ酸 | ◎ |
苛性カリ | ◎ | フレオンR134a | × |
苛性ソーダ | ◎ | 不活性フッ素オイル | × |
ガソリン | ◎ | ブレーキフルード(エーテル系) | ◎ |
カップグリス | ◎ | ヘキサン | ◎ |
ギア油 | ◎ | ベンゼン | ◎ |
キシレン | ◎ | ホルマリン | ◎ |
軽油 | ◎ | マシン油 | ◎ |
クロロホルム | 〇 | 水 | ◎ |
ケロシン | ◎ | 水系切削油 | ◎ |
酢酸 | ◎ | メタノール | ◎ |
酢酸エチル | ◎ | MEK | ◎ |
硝酸 | ◎ | メチルイソブチルケトン | ◎ |
植物油 | ◎ | モノエタノールアミン | ◎ |
次亜塩素酸ソーダ | ◎ | ラッカー | ◎ |
ジオキサン | ◎ | リン酸エステル系作動油 | ◎ |
四塩化炭素 | 〇 | 硫酸 | ◎ |
ジクロロメタン | ◎ | リチウムグリス | ◎ |
シリコングリス | ◎ | 鉱油系冷凍機油 | ◎ |
◎:使用可 〇:多少の影響有り △:あまり推奨しない ×:使用不可
注)上記は参考データです。温度や圧力、その他の条件によって使用可否は変化します。
主な使用箇所
取扱注意点
〒130-0021
東京都墨田区緑3丁目4番10号
桜シール本社ビル