フロロパワー(Fluoro-Power)®シリーズに属すFFKM材質の耐熱・CS抑制タイプであるフロロパワーFFCS(Fluoro-Power FFCS/FP-FFCS)には、圧縮永久歪み(CS = Compression Set)の良化に焦点を当てた設計が為されています。320℃クラスの耐熱性と優れた耐薬品性を兼ね備え、特に高温域の動的な環境で秀逸な性能を発揮します。
但し、耐熱タイプのFFKM材質として代表的なフロロパワーFFSとの比較では、圧縮永久歪み率が低く抑えられている反面、最高温度域ではゴム弾性の維持力が劣ります。また、原材料のパーフルオロエラストマー(FFKM)に由来する強酸や強アルカリ、極性溶剤に対する優秀な耐薬品性を有しているものの、飽和蒸気やアミン系流体には適しません。
フロロパワーFFCSは、高温環境で開閉が繰り返される装置のシール部位などで、その真価を発現します。動的用途なのか静的用途なのかを主軸に、他の耐熱グレードとの適切な使い分けが望まれます。
化学構造
4フッ化エチレン・パーフルオロメチルビニルエーテル共重合物です。主鎖の全てがフッ素結合(C−F)であり、炭化水素結合(C−H)が存在しないことから、非常に優れた耐薬品性や腐食ガス性、耐熱性を有します。全体的にフッ素化されているこの構造では、架橋を促すことが難しい為、補助脚としてCSM(Cure Site Monomer)が付加されます。特にフロロパワーFFCSには、パーフルオロエラストマー(FFKM)の中でも特異なCSM、及びそれに対応する配合剤に拠って、他のFFKM材とは別様の架橋が形成されています。圧縮永久歪みをはじめとする物性面だけでなく、耐熱性や耐薬品性といったフロロパワーFFCSが持つ様々な性能側面は、この特殊な架橋に由来しています。
関連する法規制等
フロロパワー(Fluoro-Power)®ほか、カルレッツ(Kalrez)®などの各メーカーが掲げる高機能ゴム材質には、互換的に使用できるものが多い反面、特定の用途を目的に特別な性能が付与されているものも含まれています。相当品として取り扱う場合は、使用条件などを注意深く確認して下さい。
フロロパワーFFCSの圧縮永久歪み
高温条件下での圧縮永久歪み性能が秀でており、長時間に亘る連続の高温環境であっても、優れた性能を発揮することが出来ます。
試験片:P-26 圧縮率:25% 試験時間:70時間
300℃付近までは、特に優れた圧縮永久歪み率を保持します。繰り返し開閉する動作箇所など、高温下での動的な使用に適しています。
試験片:P-26 圧縮率:25% 試験温度:250℃
長時間を経ても圧縮永久歪み率の変化が低く抑えられ、動的環境での長寿命化が実現されています。
フロロパワーFFCSの測定値
試験種類 | 項目 | フロロパワーFFCS |
---|---|---|
80 | ||
25.3 | ||
159 | ||
15.8 | ||
試験条件 | 200℃×70時間 | |
硬さ変化 | 0 | |
引張強さ変化率(%) | -5 | |
伸び変化率(%) | -3 | |
試験条件 | 200℃×70時間 | |
9 |
使用温度範囲
推奨値は0~320℃です。但し、最高温度域での継続使用は熱硬化による破損が生じやすく、寿命が短くなります。逆に、最低温度域ではゴム弾性が低下する為、シール性に悪影響を生じる危険が高まります。ご注意下さい。尚、250℃以上で使用する場合には熱膨張が大きくなりますので、通常の溝設計よりもつぶし代を小さめに、溝を大きめに設定することを推奨します。
圧力特性
最高圧力の推奨値は8MPaです。但し、諸条件によって数値は異なります。尚、耐圧性はバックアップリングの併用で向上させることが出来ます。
耐薬品性
優秀です。殆どの薬品に耐性を有し、様々なゴム材質の中でも秀でています。但し、フロロパワーFFをはじめとする他のFFKM材質との比較では、アミン類や水蒸気などへの耐性が劣っており、注意が必要です。Oリングの耐薬品性(接触流体と材質の適合性)に於いてより多くの液体や気体に対する耐久性の目安を掲載しておりますので、下表と併せて参考にしてみて下さい。
薬品名 | 耐性 | 薬品名 | 耐性 |
---|---|---|---|
アセトアルデヒド | ◎ | ジメチルアセトアミド | ◎ |
アセトン | ◎ | ジエチルエーテル | ◎ |
アニリン | ◎ | A重油 | ◎ |
アンモニア水 | ◎ | シンナー | ◎ |
IPA | ◎ | 水酸化リチウム | ◎ |
エタノール | ◎ | 100℃水蒸気 | × |
エチレングリコール | ◎ | テトラクロロエチレン | 〇 |
エチレンジアミン | × | テトラヒドロフラン | ◎ |
N-メチル-2-ピロリドン | ◎ | 灯油 | ◎ |
塩化エチル | ◎ | トリクロロエチレン | 〇 |
塩酸 | ◎ | トルエン | ◎ |
エンジン油 | ◎ | トリエチルアミン | × |
王水 | ◎ | ブチルアセテート | ◎ |
過酸化水素水 | ◎ | フッ酸 | ◎ |
苛性カリ | ◎ | フレオンR134a | × |
苛性ソーダ | ◎ | 不活性フッ素オイル | × |
ガソリン | ◎ | ブレーキフルード(エーテル系) | ◎ |
カップグリス | ◎ | ヘキサン | ◎ |
蟻酸 | ◎ | ベンゼン | ◎ |
キシレン | ◎ | ホルマリン | ◎ |
クロロブロモメタン | ◎ | メタクリル酸 | ◎ |
クロロホルム | 〇 | 水 | ◎ |
酢酸 | ◎ | メタノール | ◎ |
酢酸エチル | ◎ | MEK | ◎ |
硝酸 | ◎ | メチルイソブチルケトン | ◎ |
シクロヘキサン | ◎ | モノエタノールアミン | × |
次亜塩素酸ソーダ | ◎ | ラッカー | ◎ |
ジオキサン | ◎ | リン酸エステル系作動油 | ◎ |
四塩化炭素 | 〇 | 硫酸 | ◎ |
ジクロロメタン | ◎ | リチウムグリス | ◎ |
シリコングリス | ◎ | 六フッ化硫黄 | ◎ |
◎:使用可 〇:多少の影響有り △:あまり推奨しない ×:使用不可
注)上記は参考データです。温度や圧力、その他の条件によって使用可否は変化します。
主な使用箇所
取扱注意点
〒130-0021
東京都墨田区緑3丁目4番10号
桜シール本社ビル