原料ゴム(ポリマー)としてのパーフルオロエラストマー(FFKM)の解説です。「パーフロロゴム」や「パーフロロエラストー」、英語で「Perfluoroelastomer」などとも表記されるこのゴム材料は、主鎖の全てがC―F結合で形成されている為、フッ素樹脂と同レベルの極めて優れた耐薬品性や耐熱性を有し、且つゴム弾性をも保有しながら耐プラズマ性や低溶出性といった性能でも抜きん出ています。こういった生産が非常に難い上に需要が限定的で大変高価であるにも関わらず、半導体や液晶関連、化学プラントといった特定分野ではOリング材質などに重宝されています。また、現在では様々な産業がゴム材料に高い性能を要求するようになったことで、塗装や石油採掘、ガス採掘、真空関連等々、需要の範囲は広がりつつあります。
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| 正式名称 | パーフルオロエラストマー |
|---|---|
| 化学構造 | 4フッ化エチレンパーフルオロメチルビニルエーテル共重合体 又は 4フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体 |
| ポリマー比重 | 1.95〜2.10 |
| 代表的特長 | 耐薬品性、耐熱性 |
| 主なOリング材質 | フロロパワーFF |
分子構造の主鎖には炭化水素結合(C―H)が全く無く、全てフッ素結合(C−F)で形成されています。C−F結合は非常に強固なので耐熱性に優れ、更にフッ素ゴム(FKM)と異なってC−H結合が存在しないことから、同じ極性を持つ薬品(有機フッ素薬品等)を除く全ての薬品から影響を受けない耐薬品性を有しています。
基本構造には2種類が有り、各メーカーによって採用している方式が異なります。どちらも完全な飽和結合で、フッ素樹脂とほぼ同じ構造である為、(C−H)や(C−ヘテロ原子)などで構成された第3モノマー(Cure Site Monomer = CSM)を少量付加し、架橋点を形成することではじめて加硫できるポリマーとなります。尚、CSM構造にはC−F結合でないものが含まれるので、主ポリマーと比べて結合力が弱く、熱や薬品の影響を受けやすくなります。従って、パーフロ材の耐薬品性や耐熱性、機械特性といった性能は、基本構造とCSMの関係で決定されるといっても過言では無く、各原料ゴムメーカーは基本構造を公開しても、重要なノウハウであるCSM構造は原則として非公開にしています。
CSM:Cure Site Monomer
CSM:Cure Site Monomer
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パーフルオロエラストマー(FFKM)に用いられる主な配合剤には、以下のようなものが挙げられます。
| 添加剤 | 具体例 |
|---|---|
| 補強性充填材 | カーボンブラック、珪酸類 |
| 可塑剤 | 使用しない |
| 架橋剤 | 有機過酸化物など |
| 加硫促進剤 | 使用しない |
| 老化防止剤 | 使用しない |
| 加硫助剤 | トリアリルイソシアネートなど |
| 加工助剤 | ステアリン酸類など |
石油系合成ゴムに比べて配合剤の添加比率が極端に低い原料ゴムです。充填材の種類と添加量のみで物性を調整しますが、構造がフッ素樹脂に近いことから原料自体の硬度や粘度が高めで、添加量は他のゴム材料と比較して最も少なく、用途によっては充填材無し(ノンフィラー)の配合をする場合もあります。また最も重要な特性である耐薬品性に影響することを避ける為に、溶出する可能性が高い可塑剤や老化防止剤、加工助剤などの使用は限定的です。
このように添加物が少ない中、最も重要な配合剤が架橋材と加硫助剤です。付加されているCSMによって使用できる種類が限定されることが多いのですが、一般的なグレードでは有機過酸化物とトリアリルイソシアネートを使用(パーオキサイド加硫)するのが主流です。尚、耐熱性に特化したグレードなどでは市販されていない特殊な架橋剤や加硫助剤が必要となり、また大抵その内容は非公開である為、それらの原料ゴムは多くの場合、原材料メーカーによるプリコンパウンドゴムの状態で販売されています。
| 薬品名 | 化学式 | 評価 |
|---|---|---|
| 水素 | H2 | ◎ |
| ヘリウム | He | ◎ |
| 窒素 | N2 | ◎ |
| 酸素 | O2 | ◎ |
| 塩素 | Cl2 | ◎ |
| アルゴン | Ar | ◎ |
| オゾン | O3 | ◎ |
| アンモニア | NH3 | 〇 |
| 二酸化炭素 | CO2 | ◎ |
| 塩化水素 | HCl | ◎ |
| シラン | SiH4 | ◎ |
| 三塩化ホウ素 | BCl3 | ◎ |
| 三フッ化ホウ素 | BF3 | ◎ |
| 三フッ化塩素 | ClF3 | ◎ |
| ジボラン | B2H6 | ◎ |
| 二塩化シラン | SiH2Cl2 | ◎ |
| 四フッ化炭素 | CF4 | ◎ |
| 三フッ化窒素 | NF3 | ◎ |
| ヒ化水素 | AsH3 | ◎ |
| ホスフィン | PH3 | ◎ |
| セレン化水素 | H2Se | ◎ |
| 五フッ化ヨウ素 | IF5 | ◎ |
| 亜酸化窒素 | N2O | ◎ |
| 四塩化炭素 | CCl4 | 〇 |
| 臭化水素 | HBr | ◎ |
| 塩酸 | HCl | ◎ |
| 硫酸 | H2SO4 | ◎ |
| 硝酸 | HNO3 | ◎ |
| フッ酸 | HF | ◎ |
| リン酸 | H3PO4 | ◎ |
| 過酸化水素水 | H2O2 | ◎ |
パーフルオロエラストマー(FFKM)を製造している主要な原料ゴムメーカーは下表の通りです。フッ素ゴム(FKM)と同様にプラントでの重合が非常に難しいことから、ニトリルゴム(NBR)などの石油系合成ゴムのメーカーと比較して極端に数が少なくなります。尚、FFKM市場の先発品として有名なデュポン(ケマーズ)社のカルレッツ(Kalrez)®は、FFKM系の材質(加硫ゴム)に係る名称のひとつです。カルレッツ(Kalrez)®については、同社が配合設計から製品加工までを一貫で行って流通を制しており、公式では原料ゴムの状態での供給は行われていません。
| メーカー | 国 | 商品名 <材料記号> |
|---|---|---|
| デュポン社/ E.I.du Pont de Nemours and Company | アメリカ合衆国 | カルレッツ(Kalrez)® <Oリング材質(加硫ゴム)の名称です。公式では、原料ゴムや配合ゴムの状態での供給は行われていません。> |
| ケマーズ社/ The Chemours Company | ||
| 3M社/ 3M Company | アメリカ合衆国 | ダイニオン(Dyneon)™ <PFE 40Z>、<PFE 90Z>、<PFE 132TBZ> |
| 旭硝子株式会社(AGC)/ Asahi Glass Co., Ltd. | 日本国 | アフラスプレミアム(Aflas-Premium)® <PM-1100>、<PM-3000>、<CP-4000> |
| ダイキン工業株式会社/ Daikin Industries, Ltd. | 日本国 | ダイエル(DAI-EL)™ <GA-55>、<GA-65>、<GA-105> |
| デュプラ(DUPRA)™ <Oリング材質(加硫ゴム)の名称です。公式では、原料ゴムや配合ゴムの状態での供給は行われていません。> | ||
| ソルベイ社/ Solvay S.A. | ベルギー王国 | テクノフロン(Tecnoflon)® <PFR 94>、<PFR 95>、<PFR 95HT> |
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