Oリング(ゴム製品)から溶出する物質は、原料ゴムから分断された低分子重合物が溶出するケースを除き、殆どが化学的に結合していない配合剤(充填材や可塑剤)、或いは製造や流通の過程で混入した不純物です。Oリング(ゴム製品)を形づくるゴム材質(加硫ゴム)は、原料ゴムと配合剤を混ぜ合わせたもの(配合ゴム)に、架橋反応(加硫)を促したものであることから、意図的な添加物か偶発的な不純物かに関わらず、化学的に結合していない成分を内包しています。それらの成分は、元の状態では架橋によって形成された網目構造と絡み合っていますが、特定の流体と接触すると溶解して網目構造から抜け出し始めます。偶発的に混入した不純物は微量なこともあって短時間で抜け切り溶出も少ない反面、意図的な添加物は長期間に亘って溶出が続き、場合によっては製品の体積を極端に減少させてシール機能などに深刻な影響を及ぼすこともあります。以下@〜Cは、溶出の主だった原因と、それぞれに係る溶出物の種類をまとめたものです。尚、一般産業で要求される溶出性のレベルで、B及びCの内容が影響を及ぼすことは殆どありません。
@ 原料ゴムに起因する溶出
原料ゴムの基本骨格となる構成物質が溶出することは稀です。但し、結合力の弱い分子鎖を持つ場合、シリコンゴム(VMQ)から分断された低分子シロキサンのように、低分子重合物が溶出することがあります。また、原料ゴムの中には重合時の触媒物質が残留していることがあり、それが溶出物となる場合もあります。
原料ゴムに起因して溶出する代表的な元素(2周期までの元素は除く) |
直接原因 |
元素 |
記号(和名/英名) |
族 |
分類 |
原料ゴム(ポリマー) |
Si(珪素/Silicon) |
14 |
半金属 |
Cl(塩素/Chlorine) |
17 |
ハロゲン |
Ca(カルシウム/Calcium) |
2 |
アルカリ土類金属 |
* 元素レベルで確認した際の代表例です。通常は化合物として溶出します。
A 配合剤に起因する溶出
配合剤は、溶出の直接的な原因として最もよく見られる意図的な添加物です。充填材や可塑剤、架橋剤、加工助剤といった各種配合剤は、全て溶出の要因となり得ます。特に充填材、可塑剤、そして加工助剤は、基本的に加硫による原料ゴムとの化学的な結合が無いことから製品になっても只の混合状態にあり、殆ど液状である可塑剤をはじめ、接触する流体によっては簡単に溶け出し始めます。また、架橋剤や加硫促進剤は加硫によって化学的な変化が齎されますが、変化せずに残留したものや変化後の不要な物質は、そのまま混合されているだけなので容易に溶出します。尚、製品の硬化や体積減少といったシール機能に対して直接的に深刻な影響を及ぼす溶出現象の多くは、配合剤に起因しています。エチレンプロピレンゴム(EPDM)系のゴム材質のように添加物の含有比率が高いもので発生し易い他、原料ゴム自体が有する耐薬品性が劣っている場合にも顕著に発生し、膨潤や分解による網目構造の変化に乗じて比較的溶出し難い添加物までもが溶け出し始めます。
配合剤に起因して溶出する代表的な元素(2周期までの元素は除く) |
直接原因 |
元素 |
記号(和名/英名) |
族 |
分類 |
充填材(フィラー) |
Si(珪素/Silicon) |
14 |
半金属 |
Zn(亜鉛/Zinc) |
12 |
(卑金属) |
顔料 |
Ti(チタン/Titanium) |
4 |
遷移金属 |
Cu(銅/Copper) |
11 |
遷移金属 |
Cr(クロム/Chromium) |
6 |
遷移金属 |
Fe(鉄/Iron) |
8 |
遷移金属 |
加硫材
加硫促進剤 |
S(硫黄/Sulfur) |
16 |
非金属 |
Zn(亜鉛/Zinc) |
12 |
(卑金属) |
P(燐/Phosphorus) |
15 |
非金属 |
Mg(マグネシウム/Magnesium) |
2 |
(卑金属) |
Ca(カルシウム/Calcium) |
2 |
アルカリ土類金属 |
加工助剤 |
Zn(亜鉛/Zinc) |
12 |
(卑金属) |
Ca(カルシウム/Calcium) |
2 |
アルカリ土類金属 |
Na(ナトリウム/Sodium) |
1 |
アルカリ金属 |
配合剤に含まれる不純物 |
Mn(マンガン/Manganese) |
7 |
遷移金属 |
Fe(鉄/Iron) |
8 |
遷移金属 |
* 元素レベルで確認した際の代表例です。通常は化合物として溶出します。
B 製造工程に起因する溶出(極低溶出レベルの影響)
前述の@やAと比較して極端に微量ですが、製造工程で製品(或いは原材料や半製品)と接触する全ての生産設備や作業員は、不純物(溶出物)を混入させる原因となります。代表的な例としては、混練工程で使用されるオープンロールや、裁断工程で使用される刃物、圧縮成形(プレス)工程で使用される金型などに起因する金属類が挙げられます。通常、それらの機器には使用の度に入念な清掃が施される為、一般的な製品用途で問題となるレベルの不純物が混入することはありません。しかし極微細ではあっても、厳密には機器表面からの金属イオンや洗浄剤の残留物などが製品に移行する可能性があり、精密な分析方法では溶出物として検出されることがあります。その他にも、作業員が素手で触れた箇所に人間の肌表面に存在する皮脂や汗などの物質が付着したり、原料ゴムを包装しているフィルム素材(ポリエチレンなどの合成樹脂)に含まれる添加剤の成分が混入したりといった些細な事象が、極低溶出レベルが必要となる特殊な用途に於いては問題視されることがあります。
製造工程に起因して溶出する代表的な元素(2周期までの元素は除く) |
直接原因 |
元素 |
記号(和名/英名) |
族 |
分類 |
刃物(裁断機やハサミなど) |
Fe(鉄/Iron) |
8 |
遷移金属 |
Ni(ニッケル/Nickel) |
10 |
遷移金属 |
金型 |
Fe(鉄/Iron) |
8 |
遷移金属 |
Ni(ニッケル/Nickel) |
10 |
遷移金属 |
Cr(クロム/Chromium) |
6 |
遷移金属 |
人体(素手) |
Na(ナトリウム/Sodium) |
1 |
アルカリ金属 |
Ca(カルシウム/Calcium) |
2 |
アルカリ土類金属 |
K(カリウム/Potassium) |
1 |
アルカリ金属 |
包装材(ポリフィルムなど) |
Ca(カルシウム/Calcium) |
2 |
アルカリ土類金属 |
Na(ナトリウム/Sodium) |
1 |
アルカリ金属 |
* 元素レベルで確認した際の代表例です。通常は化合物として溶出します。
C 流通過程に起因する溶出(極低溶出レベルの影響)
前述のBと同様、非常に微量ではありますが、製品に触れた人の手や包装材から不純物が付着し、溶出の原因となることがあります。
流通過程に起因して溶出する代表的な元素(2周期までの元素は除く) |
直接原因 |
元素 |
記号(和名/英名) |
族 |
分類 |
人体(素手) |
Na(ナトリウム/Sodium) |
1 |
アルカリ金属 |
Ca(カルシウム/Calcium) |
2 |
アルカリ土類金属 |
K(カリウム/Potassium) |
1 |
アルカリ金属 |
包装材(ポリフィルムなど) |
Ca(カルシウム/Calcium) |
2 |
アルカリ土類金属 |
Na(ナトリウム/Sodium) |
1 |
アルカリ金属 |
* 元素レベルで確認した際の代表例です。通常は化合物として溶出します。
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