オイルシールの不具合(漏れ)についてのまとめです。シール対象物の漏洩が確認された場合、リップ部を中心にオイルシール自体を観察すると共に、軸やハウジングなどの状態も総合的に判断した上で、原因を解明して対策を講じる必要があります。ここでは、漏洩の状況をリップ部からの漏れ、及びはめあい部からの漏れに大別し、それらの不具合に係るオイルシールの故障や取付部の異常について解説いたします。オイルシールの使用に係る予備知識として、参考にして下さい。
オイルシールの不具合(漏れ)についてのまとめです。シール対象物の漏洩が確認された場合、リップ部を中心にオイルシール自体を観察すると共に、軸やハウジングなどの状態も総合的に判断した上で、原因を解明して対策を講じる必要があります。ここでは、漏洩の状況をリップ部からの漏れ、及びはめあい部からの漏れに大別し、それらの不具合に係るオイルシールの故障や取付部の異常について解説いたします。オイルシールの使用に係る予備知識として、参考にして下さい。
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オイルシールとは無関係の漏れ、または誤認
シール対象物の漏れを発見した際、オイルシールの故障、若しくはオイルシールの取付方法などに係る周辺部の不具合を疑う前に、オイルシールとは直接関係の無い箇所からの漏れ、または誤認の可能性を考慮して下さい。以下は、その代表的な例です。
1)オイルシールとは直接関係の無い機械部品が原因の漏れ
多くの場合、ガスケットの劣化、締め付けボルトの緩み、或いは合わせ面のキズや変形などに起因しているので、確認して下さい。
機械本体の故障やカバー部品の亀裂などを確認して下さい。
2)誤認(漏洩ではない)
初期潤滑の確保はオイルシールが適正に機能する為に重要ですが、潤滑剤(潤滑油/グリス)の量が多すぎると組み込み時にはみ出して、漏れと誤認される場合があります。
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オイルシールの使用で漏れを生じた場合、オイルシール現品の状態を分析することで、その要因を絞り込むことが出来ます。以下は、リップ部から、つまりオイルシール内周面からの漏れについて、現品の状態から推定される代表的な原因と対策をまとめたものです。但し、シール不具合の原因解明は、機械の状態や運転環境を総合的に調査する必要があります。短絡的な判断を避け、オイルシールとは無関係な漏れ、または誤認なども考慮しながら、有効な措置を講じて下さい。
目視で確認可能なキズが有る。
リップ先端にキズ | 軸端の面取寸法や角度が不適切な為、リップ部が軸端に引っ掛かって傷ついた。 | 軸端の面取りを適正に行う。 |
軸端の面取部にバリやカエリが付いており、オイルシールの組み込み時に接触して傷ついた。 | 研磨紙(エメリーペーパー)などを用いてバリやカエリを除去する。 | |
軸のスプラインやキー溝が、オイルシールの組み込み時に接触して傷ついた。 | キー溝やスプラインにキャップなどの保護治具を被せ、鋭角部に触れないようにする。 | |
オイルシールの運搬や保管に於いて、金属部品の鋭角部などにオイルシールが接触して傷ついた。 | 保管や運搬の方法を改善する。 | |
金属の切削粉などが付着した手でオイルシールを取り扱ったことにより傷ついた。 | リップ先端には極力触れないようにし、どうしても必要な場合には清浄な手で取り扱う。 | |
オイルシールや取付部に付着した異物が噛み込んで傷ついた。 | オイルシールの洗浄、及び取付部の洗浄を行う。 |
リップ部の円周上の一部、或いは全体が捲れている
リップの反転 | 軸端の面取寸法や角度が不適切な為、リップ部が軸端に引っ掛かって反転した。 | 軸端の面取りを適正に行う。また、組み立ての際は面取部にグリスを塗布する。 |
軸とハウジングの心がずれた状態で組み立てられ、リップ部が反転した。 | 偏心量に注意して組み立てを行う。また、軸端にグリスを塗布する。 | |
機械の運転中に発生した仕様以上の大きな内圧により、リップ部が反転した。 | オイルシールの耐圧性を勘案し、ブリーザを取り付けるなどして圧力が掛からない構造に改良する。若しくは、耐圧オイルシールを使用する。 |
リップ部全体が硬化しており、亀裂を生じている。また、摺動部が変色(光沢あり)している。
リップ摺動幅が広く、変色(光沢あり)している。また、リップに亀裂を生じている。 |
リップ摺動面が硬化しており、亀裂を生じて(生じ易くなって)いる。また、摺動部が変色(光沢あり)している。 |
リップの硬化 | 使用温度がゴム材質の耐熱限界を超えて上昇し、熱老化によってリップが硬化した。 〔参考:Oリング(ゴム材質)の耐熱性〕 | オイルシールの耐熱性を勘案し、リップ部の材質を変更する。若しくは、機械の設計を変更して温度上昇を緩和する。 |
機械の運転中に発生した仕様以上の大きな内圧により、リップが硬化した。 | オイルシールの耐圧性を勘案し、ブリーザを取り付けるなどして圧力が掛からない構造に改良する。若しくは、耐圧オイルシールを使用する。 | |
潤滑油量の問題や飛沫潤滑により、リップ部への油の供給が少なくなって潤滑不足を生じ、摩擦でリップが硬化した。 | 潤滑油量や供給方法を改善する。 * 飛沫潤滑については、応急処置としてダストリップ付きのオイルシールを採用し、リップ間にグリスを充填することも有効です。 〔参考:潤滑性を確保〕 |
リップ部のゴム材質が波打って膨らみ、軟らかくなっている。
リップの軟化 | 潤滑油(シール対象物)に対してゴム材質の耐油性(耐薬品性)が備わっておらず、膨潤現象が発生してリップが軟化した。 〔参考:Oリング(ゴム材質)の耐油性〕 〔参考:Oリング(ゴム材質)の耐薬品性〕 | オイルシールの耐油性(耐薬品性)を勘案し、リップ部の材質を変更する。若しくは、潤滑油を変更する。 |
洗油や有機溶剤に浸漬したり、付着したまま放置したりしたことで、膨潤現象が発生してリップが軟化した。 | 原則として、オイルシールは洗浄しない。 |
リップ先端部が大きく摩耗しており、面荒れ(光沢なし)している。 |
リップ先端部が大きく摩耗しており、条痕や凹みを生じている。
リップ先端部が大きく摩耗しており、摩耗面に凹みを生じている。
リップの過大摩耗 | 潤滑油量や機器構造(スリンガやドレインの位置など)の問題、或いは飛沫潤滑により、潤滑不足を生じてリップが異常に摩耗した。 | 潤滑油量や機器構造を改善する。 * 飛沫潤滑については、応急処置としてダストリップ付きのオイルシールを採用し、リップ間にグリスを充填することも有効です。 〔参考:潤滑性を確保〕 |
オイルシールや取付部に付着した異物(切削粉や塵といったゴミ、或いは機器に使用した塗料など)が噛み込んで、リップが異常に摩耗した。 | オイルシールの洗浄、及び取付部の洗浄を確実に行う。 | |
機械の運転中に発生した仕様以上の大きな内圧により、リップが異常に摩耗した。 | オイルシールの耐圧性を勘案し、ブリーザを取り付けるなどして圧力がかからない効かき構造に改良すつ。もしくは、耐圧オイルシールを使用する。 | |
軸の面粗度が大き過ぎたことで、リップが異常に摩耗した。 | 軸の面粗度を考慮して、軸の交換、若しくは研磨紙(エメリーペーパー;#240程度)で修正を行う。 * 軸に修正を施す際は、研磨紙を軸方向に動かさないで下さい。 |
リップ円周上で摩耗の幅が均一でなく、最小幅と最大幅が対象位置にある。また、シールリップとダストリップが同位置で大きく摩耗している。
リップ円周上で摩耗の幅が均一でなく、最小幅と最大幅が対象位置にある。また、シールリップとダストリップが逆位置で大きく摩耗している。
リップの偏摩耗 | 軸とハウジング穴の中心がずれた状態で機械を運転したことにより、リップが異常に摩耗した。 | 偏心量を考慮して、軸とハウジングの心出しを改善する。 |
軸が撓んだ状態で機械を運転したことにより、リップが異常に摩耗した。 | 撓みに対する軸の強度を改善する。 | |
ハウジング穴径が仕様よりも小さく、無理に挿入したオイルシールが傾斜して取り付けられたことによって、リップが異常に摩耗した。 | ハウジング穴の寸法精度を考慮して、内径寸法を適正化する。 | |
ハウジング穴に適切な面取りが施されておらず、無理に挿入したオイルシールが傾斜して取り付けられたことによって、リップが異常に摩耗した。 | ハウジング穴の面取りを適正に行う。 | |
ハウジング穴に設置されている肩の隅部Rが不適切な為、オイルシールが傾斜して取り付けられたことによってリップが異常に摩耗した。 | ハウジング穴の肩の隅部Rを適正化する。 | |
取付治具が傾斜していた為、オイルシールが傾斜して取り付けられてリップが異常に摩耗した。 | 取付治具を改良する。 |
リップ腰部が裂けている。
リップ腰部に亀裂 | 組み込み時にリップ部が押し潰されて、腰部に亀裂を生じた。 | ハウジング穴への組み込みを適正に行う。 |
機械の運転中に発生した仕様以上の大きな内圧により、リップ腰部に亀裂を生じた。 | オイルシールの耐圧性を勘案し、ブリーザを取り付けるなどして圧力が掛からない機械構造に改良する。若しくは、耐圧オイルシールを使用する。 |
金属環が変形し、摺動幅が変化している。
金属環の変形 | 組み込み方法(取付治具など)が適切でなかったことで、傾斜して取り付けられたオイルシールが変形した。 | ハウジング穴への組み込みを適正に行う。 |
オイルシールに外観上の異常がない。 | 軸の摺動部に目視で確認可能なキズや巣があり、漏れが発生した。 | キズに修正加工を施す。若しくは、シム調整によってオイルシールが摺動する位置をずらす。 |
軸の加工痕に方向性があり、流体が軸方向に移動して漏れが発生した。 | 軸表面の仕上げを適正に行う。 | |
オイルシールや軸に異物が付着した状態で機械を運転したことにより、軸の摺動部が摩耗して漏れが発生した。 | オイルシールの洗浄、及び取付部の洗浄を行う。 * 摩耗した軸を再度使用する場合は、シム調整によってオイルシールが摺動する位置をずらして下さい。 | |
外部から侵入した異物が摺動部に噛み込んだことにより、軸が摩耗して漏れが発生した。 | ダスト量に応じ、ダストリップ付きのオイルシールやダストカバーを使用する。* 摩耗した軸を再度使用する場合は、シム調整によってオイルシールが摺動する位置をずらして下さい。 | |
潤滑油の異常(劣化や異物混入)により、軸が摩耗して漏れが発生した。 | 清浄な潤滑油に交換する。また、ダスト量に応じ、ダストリップ付きのオイルシールやダストカバーを使用する。* 摩耗した軸を再度使用する場合は、シム調整によってオイルシールが摺動する位置をずらして下さい。 | |
ベアリングの異常により、軸偏心が仕様よりも大きくなって漏れが発生した。 | ベアリングを交換する。 | |
軸偏心(軸振れ)や取付偏心(回転振れ)が大き過ぎたことにより、リップ先端が回転軸に追随し切れなくなって、漏れが発生した。 | 偏心量を考慮して、軸とハウジングの心出しを改善する。 | |
使用温度に対してゴム材質の耐寒性が不足し、ガラス化したリップ先端が回転軸に追随し切れなくなって、漏れが発生した。 〔参考: Oリング(ゴム材質)の耐寒性〕 | リップ部のゴム材質を変更する。 | |
オイルシールの取付方向を誤ったことにより、正常に機能することが出来ずに漏れが発生した。 | 取付方法に注意し、適正な方向(シールリップ部はシール対象物側)に装着を行う。 |
オイルシールの使用で漏れを生じた場合、オイルシール現品の状態を分析することで、その要因を絞り込むことが出来ます。以下は、はめあい部から、つまりオイルシール外周面からの漏れについて、現品の状態から推定される代表的な原因と対策をまとめたものです。但し、シール不具合の原因解明は、機械の状態や運転環境を総合的に調査する必要があります。短絡的な判断を避け、オイルシールとは無関係な漏れ、または誤認なども考慮しながら、有効な措置を講じて下さい。
オイルシールの外観 |
異常 | 原因 | 対策 |
はめあい部に軸方向のキズがある。或いは、ゴムが毟れている。
はめあい部に軸方向のキズ、或いはゴムの毟れ、齧れ | ハウジング穴径が仕様よりも小さく、無理に挿入したオイルシールが傾斜して取り付けられたことにより、はめあい部が損傷した。 | ハウジング穴の寸法精度を考慮して、内径寸法を適正化する。 |
ハウジング穴に適切な面取りが施されておらず、オイルシールに角部のバリやカエリが干渉したことによって、はめあい部が損傷した。 | ハウジング穴の面取りを適正に行う。 | |
取付治具とハウジングの同軸度不良でオイルシールが傾斜して取り付けられたことにより、はめあい部が損傷した。 | ハウジング穴への組み込みを適正に行う。 |
金属環が変形し、はめあい部の装着跡が局部的に途切れている。
金属環の変形 | 組み込み方法(取付治具など)が適切でなかったことで、傾斜して取り付けられたオイルシールが変形した。 | ハウジング穴への組み込みを適正に行う。 |
取扱方法の不備から局部的に変形しているオイルシールを使用した為、はめあい部に隙間が出来て漏れを生じた。 | 保管や運搬の方法を改善する。また、取り扱い時の落下や硬い物との干渉などに注意する。 |
はめあい部の装着跡が円周上で不均一(斜め)である。
傾斜取付 | ハウジング穴径が仕様よりも小さく、無理に挿入したオイルシールが傾斜して取り付けられた。 | ハウジング穴の寸法精度を考慮して、内径寸法を適正化する。 |
ハウジング穴に適切な面取りが施されておらず、無理に挿入したオイルシールが傾斜して取り付けられた。 | ハウジング穴の面取りを適正に行う。 | |
取付治具とハウジングの同軸度不良でオイルシールが傾斜して取り付けられた。 | ハウジング穴への組み込みを適正に行う。 |
オイルシールに外観上の異常がない。 |
ハウジング穴にキズ、或いは鋳巣などがあり、漏れが発生した。 | 液状ガスケットを塗布する。或いは、適正なハウジングに交換する。 |
ハウジング穴の面粗度が大き過ぎたことにより、漏れが発生した。 | ハウジング穴の面粗度を適正化する。 * 応急処置としては、液状ガスケットの塗布も有効です。 |
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